2018年5月に成立(2019年1月施行)した著作権法30条の4はどのような検討に基づいて定められたのか。生成AIによる著作物の無断利用は30条の4で認められるべきなのだろうか。
以下、「著作権セミナー『AIと著作権』」のスライドを引用。
2018年5月に成立(2019年1月施行)した著作権法30条の4はどのような検討に基づいて定められたのか。生成AIによる著作物の無断利用は30条の4で認められるべきなのだろうか。
「新たな情報財検討委員会」では、将来生じうる技術なども含めて様々な検討が行われ、その中で生成AIについても話し合われていた。
AI生成物が問題となる可能性なども含めて様々な検討を行った結果、「引き続き検討を行う」という考えに至り、棚上げされている。
「新たな情報財検討委員会」では生成AIについて話し合われていたのだが、著作権法改正に向けた検討が行われた「文化審議会著作権分科会」では、生成AIについて検討が行われていない。(「30条の4は生成AIを想定していた」という意見は、「新たな情報財検討委員会」で生成AIについて話し合われていた事を根拠とした誤解)
文化審議会著作権分科会で主に検討された上記6つのサービスのうち、「システムのバックエンドにおける複製」と、 「所在検索サービス」や「情報分析サービス」の検索・分析用データベースを作成する行為、「その他CPS関係サービス」の一部分、一定条件下においての「リバース・エンジニアリング」などが、下のスライドで示された「著作物の本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型」である「第1層」と判断された。
「情報分析サービス」は元のデータを参照可能にするものであるため機械学習とは異なる。そして、「翻訳サービス」は機械翻訳ではなく、 「具体的には,屋内外の看板や案内図,食堂のメニュー表等について利用者が端末をかざして撮影した画像を事業者のサーバに送信すると言語情報が利用者の使用言語に翻訳されて表示されるようにするサービス」などとされる。この「翻訳サービス」は「公共的政策の実現のため権利者の利益との調整が求められる行為類型」である「第3層」に当たるとされた。
30条の4が適用される「第一層」の考え方は「文化審議会著作権分科会報告書(平成29年4月)」で以下のように書かれている。
著作物の表現の享受を目的としない,情報通信設備のバックエンドなどで行われる利用がこれに該当する。この類型は,対象となる行為の範囲が明確であり,かつ,類型的に権利者の利益を通常害しないものと評価でき,公益に関する政策判断や政治的判断を要する事項に関するものではない。このため,行為類型を適切な範囲で抽象的に類型化を行い,柔軟性の高い規定を整備することが望ましい。
当ページでは、2023年現在の著作権法30条の4改正が検討された当時の記録である「文化審議会著作権分科会報告書(平成29年4月)」の内容を引用しながらまとめていく。
著作権法改正を検討するにあたって、制度整備を行っても数年のうちに新たな権利制限規定の整備を求める声が寄せられる事、社会の急速な変化に伴い著作物の利用実態を完全に予測して立法的対応を行うことは困難である事、これまでの立法の手法において,著作物の利用実態が急速に変わり得る事を考慮に入れた制度設計が十分に行われていなかった事から、「柔軟性のある権利制限規定」が求められているとして話し合われた。
◆ 「柔軟性のある権利制限規定」についての懸念
・柔軟性の高い権利制限規定を採用することは,具体的な法規範が定立される時期が事前から事後に移行すること,すなわち著作物の利用行為の時点では当該行為の適法性の有無が必ずしも明らかではなく,事後的に司法判断が蓄積されていくことなどによってこれが明らかになっていくようになることを意味する。
・一般的に,権利制限規定の柔軟性が高まれば,著作権法に対する理解が十分でない利用者については,適法性の判断がより難しくなるケースが増え,意図せぬ権利侵害が行われる可能性が高まることとなると考えられる。また,適法性が不明な利用に対し積極的な利用者については,適法性が不明な範囲が拡大するためそのような利用が増加し,その結果,権利侵害が行われる可能性が高まることとなると考えられる。
・著作権法への理解度が高い者ほど訴訟リスクを恐れ,理解度が低い者ほど恐れないという相関関係が見られたことから,柔軟な権利制限規定を導入した場合に,公正な利用を行う可能性が高い者ほど利用を拡大せず,不公正な利用を行う可能性が高い者ほど利用を拡大するという結果になることが予想される。
・これらの事実からは,柔軟性のある権利制限規定を整備することにより,少なくとも,著作権法に対する理解が十分でない者や適法性が不明な利用に対し積極的な者における過失等による権利侵害を助長する可能性が相当程度あるものと考えられる。
・我が国においては,懲罰賠償制度や米国のような法定損害賠償制度などがないため訴訟によって得られる賠償額が大きくなりにくいこと,訴訟に要する費用を敗訴者に負担させることができないことから,訴訟を提起しても費用倒れになることが多いという訴訟制度及び訴訟コストの問題があり,実際に侵害対策を積極的に行っている権利者団体・事業者からは,年間約1億円の費用をかけているのに対し,損害賠償金等により回収できる金額は年間300万円程度しかないなど侵害対策に大きな負担を強いられている旨の報告があった。
・上記の訴訟制度及び訴訟コストの問題に加え,我が国では,訴訟の当事者になることでレピュテーション(評判)が低下するおそれに起因する訴訟自体に対する忌避感などから,米国と同程度に積極的に訴訟を提起するような土壌にはなく,また,当該状況を政策的に作り出していくことも容易ではない。したがって,仮に上記のように過失等による権利侵害が増加することとなる場合,権利者において権利の救済を得るために訴訟を提起するなど追加的なコストを払うか,やむを得ず侵害を放置するかのいずれかを選択せざるを得ず,社会的費用が増加することとなる。
・柔軟性の高い権利制限規定を採用することは,具体的な法規範の定立において果たす役割の比重が相対的に立法から司法に移行することを意味する。日本国憲法において国会は国の唯一の立法機関と位置付けられており(少なくとも狭義の意味での)法規を定立できるのは国会に限られる。
→「柔軟性のある権利制限規定」には、権利侵害が行われる可能性が高まったり、適法性を明らかにするために司法判断の蓄積を要するなど様々な懸念がある。
◆懸念への対応
・立法府は,民主的正統性を有する点において,司法府における規範形成に対し優位性を有する。また,立法府は司法府より,産業政策上の事項,多数当事者の利害調整に必要な情報を集めるのに適している。一方,司法府の行う法規範形成は,民主的正統性で説明されるものではないこと,個別具体的な法律上の争訟に係る受動的な作用であること,当事者以外の第三者からの意見や情報を収集する仕組みが十分でないことがその特質として挙げられる。これらのことから,多数の者の利益(公益)に関わる政策決定や,政治的な対立のある分野における決断は,基本的には立法府において行われることが望ましい。
・また,我が国においては,訴訟による紛争解決を促進する環境は必ずしも整っておらず,司法による規範形成の実現可能性が限定的であるという状況からも,柔軟な権利制限規定を設けた場合の法内容の具体化方策として,政省令による具体化や,ガイドラインのようなソフトローの活用をすることが考えられる。
・幅広い関係者の利益を集約することが困難な事項,基本的人権の制約に関わる事項や,事実関係が流動的又は過渡的である事項について,立法府における事前の多数決原理における法規範の定立が馴染みにくい場合もあるものと考える。また,行政府における委任命令やソフトローについても,専門性,迅速性,柔軟性等の観点から適切な場合があり,そうした要請に応じて活用を行うことが望ましい。行為類型によって、立法府に期待される役割は異なっており,権利制限規定の柔軟性の在り方も異なり得るということを導くことができる。
→「柔軟性のある権利制限規定」の様々な懸念に対し、ガイドラインの活用や、行為類型によって柔軟性の在り方を変える事によって対応する考えを示した。
◇ガイドラインについて
・国民の行為の準則となるべき刑罰法規は,裁判時においてではなく,行為時において既に明確にされていなければならないと考えられている。ガイドラインの整備により明確性を確保するとの見解もあるが,ガイドラインには法的拘束力がなく,ガイドラインが整備されることをもって,刑罰法規の明確性を最終的に担保できるものではないと考えられる。
◆明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた「多層的」な対応
一般的・包括的な権利制限規定の創設による「公正な利用」の促進効果はそれほど期待できない一方で,「不公正な利用」を助長する可能性が高まるという負の影響が予測される。また,立法府と司法府の役割分担の在り方との関係においても,公益に関する政策決定や政治的対立のある事項も含め多くを司法府の判断に委ねることとなり,民主的正統性の観点から必ずしも望ましいとは言い難い。刑罰法規に求められる明確性の原則との関係でも疑義が残る。さらに,我が国においては,米国と同程度に積極的に訴訟を提起して判例法の形成を促進するような土壌にはなく,また,当該状況を政策的に作り出していくことも容易ではなく,司法による規範形成の実現可能性が限定的であるという現状にも留意する必要がある。
他方,権利制限規定が,一定の明確性とともに,時代の変化に対応可能な柔軟性を持つことは,関係するステークホルダーからも期待されているところであり,明確性と柔軟性のバランスを備えた制度設計を行うことにより,「不公正な利用」の助長を抑制しつつ,「公正な利用」を促進することが可能となるものと考える。その際,立法府と司法府の役割分担や特質を踏まえ,特定の利用場面や態様に応じて適切な柔軟性の度合いを選択することにより,我が国の統治機構の観点からも望ましい権利制限規定のシステムを構築することが可能となるものと考える。
→「関係するステークホルダー(富士通やヤフー)」からの期待に応えるために、懸念が多々ある「柔軟性の高い権利制限」を実現すべく、行為類型によって不利益の度合いを分けた「3つの層」で適用性が判断された。
文化審議会著作権分科会報告書より(30条の4改正以前の内容)
[第1層]著作物の本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型
著作物の表現の享受を目的としない,情報通信設備のバックエンドなどで行われる利用がこれに該当する。この類型は,対象となる行為の範囲が明確であり,かつ,類型的に権利者の利益を通常害しないものと評価でき,公益に関する政策判断や政治的判断を要する事項に関するものではない。このため,行為類型を適切な範囲で抽象的に類型化を行い,柔軟性の高い規定を整備することが望ましい。
[第2層]著作物の本来的利用には該当せず,権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型
インターネット検索サービスの提供に伴い必要な限度で著作物の一部分を表示する場合など,著作物の本来的利用には該当せず,権利者に及び得る不利益が軽微なものがこれに該当する。この類型は,当該サービスの社会的意義と権利者に及び得る不利益の度合いに関し一定の比較衡量を行う必要はあるものの,公益的必要性や権利者の利益との調整に関する大きな政策判断や政治的判断を要する事項に関するものではない。このため,権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性質に応じ,著作物の利用の目的等によってある程度大くくりに範囲を画定した上で,相当程度柔軟性のある規定を整備することに馴染むものと考える。
[第3層]公益的政策実現のために著作物の利用の促進が期待される行為類型
著作物の本来的利用を伴う場合も含むが,文化の発展等の公益的政策目的の実現のため権利者の利益との調整が求められる行為類型であり,現行権利制限規定では,引用,教育,障害者,報道等の様々な場面に係る権利制限規定がこれに該当する。この類型は,基本的には公益的必要性や権利者の利益との調整に関する政策判断や政治的判断を要する事項に関するものである。このため,一義的には立法府において,権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性質に応じて,権利制限の範囲を画定した上で,適切な明確性と柔軟性の度合いを検討することが望ましい。
→数字の低い層ほど権利者に及び得る不利益の懸念がないとされ、「公益的必要性や権利者の利益との調整に関する大きな政策判断や政治的判断を要する事項に関するものではない」として、柔軟性の高い権利制限を規定する事を認めても良いとする根拠とされている。
◆具体的な制度設計の在り方
・著作物の本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型[第1層]の考え方
著作権法の目的は「文化の発展に寄与すること」であり,著作権法はそのための手段の一つとして,著作者の経済的利益の保護を図っているものと考えられる。そして著作者の経済的利益の源泉となる著作物の経済的価値は,市場において,著作物の流通を経て最終的に著作物を視聴する者(需要者)により評価されることによって現実化するものと考えられる。すなわち,視聴者が著作物に表現された思想又は感情を享受することによる知的又は精神的欲求の充足という効用の獲得を期待して,著作物の視聴のために支払う対価が著作物の経済的価値を基礎付けると考えられる。
著作権法は,著作者に対し財産権としての著作権を付与することで,著作物が有するこのような経済的価値について著作者が利益を確保できるようにしている。もっとも,著作権は著作物の視聴行為そのものをコントロールする権利ではない。その代わりに著作権法は,著作物に表現された思想・感情が最終的には視聴者に享受されることを前提とした上で,その表現の享受に先立って著作物の流通過程において行われる複製や公衆送信,頒布といった利用行為をコントロールできる権利として著作権(複製権,公衆送信権,頒布権等)を定めることで,権利者の対価回収の機会を確保しようとしているものと考えられる。このような考え方に基づくと,①著作物の表現の知覚を伴わない利用行為(例:情報通信設備のバックエンドで行われる著作物の蓄積等)や②著作物の表現の知覚を伴うが,利用目的・態様に照らして当該著作物の表現の享受に向けられたものと評価できない行為(例:技術開発の試験の用に供するための著作物の利用等)は,通常,著作物の享受に先立つ利用行為ではなく,権利者の対価回収の機会を損なうものではないものと考えられる。
これらのように通常権利者の対価回収の機会を損なわない著作物の利用行為は,著作権法の目的に照らせば権利者の利益を通常害さないもの(第1層に属する行為類型)と評価できる。
第1層に属する行為類型のうち相当程度のものは近年の累次の法改正によって既に権利制限の対象となっていると考えられるが,技術の進展に伴い,現行規定に定める利用行為に類するものであるものの現行規定の対象範囲から外れるおそれのある行為が新たに生じてきているとの指摘がなされている。
この点,前述のように権利者の対価回収の機会を損なわない著作物の利用行為は著作権法の目的に照らせば権利者の利益を通常害さないものと考えられることから,現行規定と同様の趣旨が妥当する行為であれば,同様に権利制限の対象とすることが適当である。
以上のことを踏まえ,第1層に当たる行為類型が可能な限り幅広く権利制限の対象となるよう,抽象的に類型化を行った上で柔軟性の高い権利制限規定を整備することが適当である。
規定の予測可能性と柔軟性のバランスに留意しつつ,望ましいと考えられる制度設計を検討することが適当である。その際,第1層に当たる行為類型が通常権利者の利益を害さないとしても,当該行為により作成された複製物が今回整備する権利制限規定の許容する目的を超えて視聴等の用に供されることとなった場合には権利者に大きな不利益を及ぼすこととなる。こうした事態が生じないよう,目的外使用を禁止するための措置等が講じられるべきである。
→第一層にあたるとされる行為そのものではなく、その行為により「作成された物」が「権利者に大きな不利益を及ぼす」という事態にならぬよう、目的外使用を禁止するための措置などを講じるべきとされている。つまり、権利制限を認めるか否かに関して、作成(生成)されるものは無関係ではない事がここで示されていた。
ここで以下の資料を参照したい。
AIと著作権の関係等について(2023年6月公開)
「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為は、原則として著作権者の許諾なく利用する事が可能」とした上で、逆に利用が認められない行為としての一例が以下のように説明されている。 ・例えば、3DCG映像作成のため風景写真から必要な情報を抽出する場合であって、元の風景写真の「表現上の本質的な特徴」を感じ取れるような映像の作成を目的として行う場合は、元の風景写真を享受することも目的に含まれていると考えられることから、このような情報抽出のために著作物を利用する行為は、本条の対象とならないと考えられる。(令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」においても類似の例が示されている。) この例を画像生成AIに例え直してみると以下のようになるだろう。 ・イラスト作成のためキャラクターイラストから必要な情報を抽出する場合であって、元のキャラクターイラストの「表現上の本質的な特徴」を感じ取れるようなイラストの作成を目的として行う場合は、元のキャラクターイラストを享受する事も目的に含まれると考えられることから、このような情報抽出の為に著作物を利用する行為は、本条の対象とならないと考えられる。 ◆情報解析(機械学習)を行った著作物の「表現」を用いる「生成AI」
著作権法は、画風などの「アイディア」にあたるものは保護しないが、アイディアを形にした「表現」は保護対象になっている(アイディア・表現二分論) ・「プロンプトなどの文字入力によって参照するデータを限定する事が出来る生成AI」に対して行われる情報解析(機械学習)は、「用いた著作物の表現が表れる(感じ取れる)事を目的とした生成物を作るために行われている」事を否定出来ない。著作物の表現を得ているのは、その表現を用いた生成物を作るためなのだから。 そのようなAIによる情報解析(機械学習)が、「著作物の本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さない」とされる行為類型である「第一層」に該当するとはとても言えない。このような生成AIに対して著作物の無断利用を認めれば、その権利者の利益を害する事は容易に想像がつく。このようなAIに対して、著作権法30条の4による(権利者に対する)権利制限を認めるべきではない。
「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為は、原則として著作権者の許諾なく利用する事が可能」とした上で、逆に利用が認められない行為としての一例が以下のように説明されている。
・例えば、3DCG映像作成のため風景写真から必要な情報を抽出する場合であって、元の風景写真の「表現上の本質的な特徴」を感じ取れるような映像の作成を目的として行う場合は、元の風景写真を享受することも目的に含まれていると考えられることから、このような情報抽出のために著作物を利用する行為は、本条の対象とならないと考えられる。
(令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」においても類似の例が示されている。)
この例を画像生成AIに例え直してみると以下のようになるだろう。
・イラスト作成のためキャラクターイラストから必要な情報を抽出する場合であって、元のキャラクターイラストの「表現上の本質的な特徴」を感じ取れるようなイラストの作成を目的として行う場合は、元のキャラクターイラストを享受する事も目的に含まれると考えられることから、このような情報抽出の為に著作物を利用する行為は、本条の対象とならないと考えられる。
◆情報解析(機械学習)を行った著作物の「表現」を用いる「生成AI」
著作権法は、画風などの「アイディア」にあたるものは保護しないが、アイディアを形にした「表現」は保護対象になっている(アイディア・表現二分論)
・「プロンプトなどの文字入力によって参照するデータを限定する事が出来る生成AI」に対して行われる情報解析(機械学習)は、「用いた著作物の表現が表れる(感じ取れる)事を目的とした生成物を作るために行われている」事を否定出来ない。著作物の表現を得ているのは、その表現を用いた生成物を作るためなのだから。
そのようなAIによる情報解析(機械学習)が、「著作物の本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さない」とされる行為類型である「第一層」に該当するとはとても言えない。このような生成AIに対して著作物の無断利用を認めれば、その権利者の利益を害する事は容易に想像がつく。このようなAIに対して、著作権法30条の4による(権利者に対する)権利制限を認めるべきではない。
・「AIが有しているのは統計的データなので権利者の利益を害することは無い」というような意見は、プロンプトなどの文字入力によって参照するデータを限定する事が出来る生成AIには当てはまらない。
プロンプト(テキスト)による指定で、元画像にあった具体的な表現が表れるAI生成物。
・また、「画像生成AIはノイズから、つまりゼロから画像を生成している」という意見も目にする事があるが、ノイズに対して合成を重ねているのだから「ゼロから」とは言えない。
画像生成AIの生成過程。
・生成AIによって行われているのは「模倣」ではない。情報解析(機械学習)に用いた著作物の「表現」を(データ変換した上で)合成しているのである。用いた著作物の「表現」が、生成AIによる合成によってAI生成物に表れる事を模倣(真似)とは言えない。生成AIは人間のように学習して対象を理解しているわけではないし、思考に基づいて作画を行っているのではなく、ただ「表現」を合成しているに過ぎない。
対象を理解せず「表現」を合成してしまうAI生成物。
◆価値ある「情報」を無断利用する文章生成AI
画像生成AIに限らず、ChatGPTなどの文章生成AIもネットにある情報を集めたデータを著者に無断で用いている。現在の情報社会において、「情報」は誰もが認める価値ある資産であり、それを無断でAI生成物に用いるのは「著作物の本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さない」とされる行為類型である「第一層」に該当するとはとても言えない。権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型である「第二層」に該当するとも言えないだろう。このようなAIに対しても、著作権法30条の4による(著作権者に対する)権利制限を認めるべきではない。
◆まとめ
・2018年に成立した著作権法30条の4は、その内容を検討された場において「画像生成AI等の生成AI」について話し合われていない。しかし、情報解析(機械学習)はバックエンドなどで(人間の目に触れず)行われるという事を根拠に「享受利用にはあたらない」とされ、「本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さない」と判断された。そして、権利者の利益を通常害さない事を前提として、「柔軟性のある権利制限」が適用される事となった。
情報解析を行った著作物の「表現」を用いて生成を行うその仕組みや、世に広まった上での実情を見るに、生成AIは「権利者の利益を通常害さない」とは言えないだろう。行為類型によって分けられた三つの層のうち「第一層」に当てはまるものとは言えないし、「30条の4」や「47条の5」による権利制限を認めるべきでない。また、「柔軟性のある権利制限」を適用させずに立法府による慎重な検討を行うべきものである。そうしなければ、日本の文化に多大な悪影響を及ぼす事になってしまうだろう。政府がこのまま著作物の無断利用を前提とした生成AIの推進を続ける事になれば、日本は他の国々から盗用大国と見做されてしまい、国際問題になりかねない。
・AIの中でも生成AIについては、情報解析(機械学習)に著作物を用いると享受利用に成り得るため、「権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型」である「第一層」にあてはめるべきではない。権利者に及び得る不利益の懸念がある行為として(権利者に対する)権利制限を認めず、権利者に許可を得た著作物のみを情報解析(機械学習)に用いるべきだ。そうして権利者に対する権利侵害の懸念を払拭した生成AIこそ、世界で求められる生成AIだろう。価値ある著作物やそれを産み出すクリエイターを数多く有する日本は、著作物の無断利用を認めてその価値を毀損するような事はあってはならない。著作物の価値を軽視せず、権利者に許可を得て不安なく著作物を活用できるAIを開発すれば、日本の著作物もAIも世界に認められる価値あるものとして普及させる事が出来るはずだ。
参考資料
新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム
「新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム」作業部会
文化審議会著作権分科会(第68回)(第23期第1回)
著作権法の一部を改正する法律 概要説明資料
著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について